『マラケシュの粋』


 パリがマラケシュのようなのかマラケシュがパリのようなのか、  通りのカフェを覗いただけでは分かりにくい。

あえて違いをあげるとすれば、街路樹にヤシの木が見えることかもしれない。

 

 カフェのテーブルには厳つい男たちの姿があった。気兼ねない会話のやりとりからして仕事仲間か、あるいは幼馴染かもしれない。

 靴磨きの少年がやってきて、テーブルを回りながら客を探していた。ひとりの男が携帯を片手に少年の前に片足を出した。少年は肩にかけた靴磨きの道具を下におろすと、男の靴にブラシをかけ始めた。

 男は少年には目もくれず電話に集中していた。それほど長い時間ではなかった。ポケットから小銭を取り出し少年に渡した。

 少年は再び道具箱を肩にかけると「シュクラン(ありがとう)」と一言いうとテーブルを離れた。

 

 カフェのテーブルにはエスプレッソのカップや炭酸水、グラスに注がれたミントティがあった。どこのテーブルを見ても、ワインやビールのグラスは見当たらない。イスラム圏ならではの光景だった。

 その為、街中に酔っ払いもいなければ酒臭い横丁もない。

 

 下戸の私にとってその光景は粋に感じてならなかったマラケシュのカフェでした。

『カフェテーブル』
『カフェテーブル』
『路地の帽子売り』
『路地の帽子売り』